・・・万一手順が狂えば隙を見て城へ火をかけても志を遂げる。これだけの事はシーワルドから聞いた、そのあとは……幻影の盾のみ知る。 逢うはうれし、逢わぬは憂し。憂し嬉しの源から珠を欺く涙が湧いて出る。この清き者に何故流れるぞと問えば知らぬと云う。・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・この男は自分の目的を遂げるために必要な時だけ、一本腕になっているのである。さて露した腕を、それまでぶらりと垂れていた片袖に通して、一方の導管に腰を掛けた。そして隠しからパンを一切と、腸詰を一塊と、古い薬瓶に入れた葡萄酒とを取出して、晩食をし・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・そしてその目的を遂げるために、財界の老錬家のような辣腕を揮って、巧みに自家の資産と芸能との遣繰をしている。昔は文士を bohm だなんと云ったものだが、今の流行にはもうそんな物は無い。文士や画家や彫塑家の寄合所になっていた、小さい酒店が幾つ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・平生の志の百分の一も仕遂げる事が出来ずに空しく壇の浦のほとりに水葬せられて平家蟹の餌食となるのだと思うと如何にも残念でたまらぬ。この夜から咯血の度は一層烈くなった。固より船中の事で血を吐き出す器もないから出るだけの血は尽く呑み込んでしまわね・・・ 正岡子規 「病」
・・・の社会人としての閲歴に理想的な批判を向けることさえ出来たならば、大森義太郎のように、嵐が通ってしまってから洞を出て来て、あの嵐のふきかたはどうこうというような批判は、正当に克服しつつ自身の文学的成育を遂げることが出来ただろう。しかしながら、・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
これまで、私たち日本の女性は、何と散り散り、ばらばらな暮しかたをして来たことでしょう。戦争の間、官製の婦人団体は、戦争目的を遂げるために、つよい力を発揮してあらゆる婦人を各方面へ動員しました。 農村で、工場で、婦人は男・・・ 宮本百合子 「婦人民主クラブ趣意書」
・・・ 作家同盟は、労農通信員を組織し、その文化的自発性を助け、同時に、彼らと大衆とのうちにあってプロレタリア・リアリストとしての発育を遂げるべきだというのである。 これは日本のプロレタリア文学のために万歳! を叫んでいいことなのだ。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・それと同じに、女性は男性の正しいよい影響を受けると、彼女の生命の一番目覚ましい発育を遂げるのです。私共は、それ故、異性の間に生れる特殊な雰囲気は、人生に大切な一種の創造的元素とし、真面目に純粋にそれを扱い、常にその内容と環境とをよりよく仕よ・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・この団体は、婦人の政治上の権利の平等を主張すると共に、婦人に経済的独立の可能を与えよと熱心に提唱して、女性が社会的発展を遂げる根本条件を確保しようと努力した。しかしこの努力も第一次大戦後の経済破綻、それに伴っての大失業、より多くの女子の失業・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・九郎右衛門は伜の家があっても、本意を遂げるまでは立ち寄らぬのである。それから備前国に入り、岡山を経て、下山から六月十六日の夜舟に乗って、いよいよ四国へ渡った。松坂以来九郎右衛門の捜索方鍼に対して、稍不満らしい気色を見せながら、つまりは意志の・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫