・・・東京のように、活動を運搬している激しさがない。外へ出るに、今頃は此服装でなければ見っともない。そういうことを、女のひとは念頭に置かないで暮せないらしい。外見は、物静で、ちんまりしているけれど、内部で、そういう些事に労する神経は並大抵でないら・・・ 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・ 丁度座敷の正面の河中に地下鉄道の工事で出る泥を運搬する棧橋がかかっているのであった。そこへ人が立って時々此方の座敷を見る。「――いつか可笑しなことがありましたよ、もう八九年も前になるな。T子さんと粕壁へ藤見に行ったことがあるんです・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・米俵はそれで運搬されている様子である。米のことが皆の心配の種になって、来月から七分搗と云われていた時、この米屋の前を通ると夜十二時頃でも煌々と電燈の光を狭い往来に溢らせていた。モーターが唸って、小僧は真白けになって疲れた動作で黙りこくって働・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・大して違ったものでもないこと、それだからこそ現象の説明は皮相な政界内幕の域を脱し得ていないこと、従って、当時のレイノーにその社会的な矛盾紛糾を解く方策が見出せなかった瞬間にはモーロアも一箇の派手な話の運搬人としての存在でしかあり得なかったの・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・一年半ばかりゴロゴロ そこの妻君の兄のところへうつる、 そこはい難いので夜だけ富士製紙のパルプをトラックにつんで運搬した、人足 そしたら内になり 足の拇指をつぶし紹介されて愛婦の封筒書きに入り居すわり六年法政を出る、「あすこへ入らな・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・精巧工業では男子一六パーセント増に対して女子六一パーセント増、特に造船業・運搬用具製造業などでは男子三五パーセント増に対して女子一〇七パーセント増。二年経たないうちに若い婦人は二倍以上に増加して来ている。 鉱山に働く婦人の数が、男子一五・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・ 犬の引く小さい運搬用橇 石炭をつんでゆく馬橇 女のカクマキ姿 空、晴れてもあの六七月頃の美しさなく、煙突から出る煤で曇って居る。 雪をかきわけて狭くつけた道にぞろぞろ歩く人出。 冬ごもり ○自由・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・防空演習が、防空という実質より、一致精神の鍛錬めいたものとなってからは、そんなに弱い娘の子がいて運搬がむずかしいという実際さえも、何か精神の不一致を意味するように見られて、うちのものは漠然と気味わるがった。田舎に避けて暮す、ということも強制・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・それから縦い戦争に行くことが出来ても、輜重に編入せられて、運搬をさせられるかも知れないと思って見る。自分だって車の前に立たせられたら、挽きもしよう。後に立たせられたら、推しもしよう。しかし壮烈や爽快とは一層縁遠くなると思うのである。 あ・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・自分はああいう巨石運搬についての詳しい事情は知らないが、専門家の研究を瞥見したところによると、結局は多衆の力によるらしい。しかしその多衆の力というものが個々の力を累計したものでなく一つの全体的な力に統一されなくては巨石は動かないのである。煉・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫