・・・いかなる詭弁も拒むことのできない事実の成り行きがそのあるべき道筋を辿りはじめたからだ。国家の権威も学問の威光もこれを遮り停めることはできないだろう。在来の生活様式がこの事実によってどれほどの混乱に陥ろうとも、それだといって、当然現わるべくし・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・堂脇のお嬢さんのモデル事件さえなければ、運命はもっと正しい道筋を歩いていたんだ。青島 僕が悪いんじゃない、堂脇のお嬢さんが存在していたのが悪いんだ。お嬢さんの存在が悪いんじゃない、その存在を可能ならしめた堂脇のじじいの存在していたのが・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ そうして今、まったく異なった心持から、自分の経てきた道筋を考えると、そこにいろいろいいたいことがあるように思われる。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 以前、私も詩を作っていたことがある。十七八のころから二三年の間であ・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・老となく、少となく、皆直ちに首肯して、その道筋を教え申さむ。すなわち行きて一泊して、就褥の後に御注意あれ。 間広き旅店の客少なく、夜半の鐘声森として、凄風一陣身に染む時、長き廊下の最端に、跫然たる足音あり寂寞を破り近着き来りて、黒きもの・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・……折からその道筋には、件の女ただ一人で。 水色の手巾を、はらりと媚かしく口に啣えた時、肩越に、振仰いで、ちょいと廻廊の方を見上げた。 のめのめとそこに待っていたのが、了簡の余り透く気がして、見られた拍子に、ふらりと動いて、背後向き・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・ なるべく水の浅い道筋を選ばねばならぬ。それで自分は、天神川の附近から高架線の上を本所停車場に出て、横川に添うて竪川の河岸通を西へ両国に至るべく順序を定めて出発した。雨も止んで来た。この間の日の暮れない内に牽いてしまわねばならない。人々・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ これでは話が横道へ這入った、それからおれが松尾へ往きついてもまだ日が出なかった、松尾は県道筋について町めいてる処へ樹木に富んだ岡を背負ってるから、屋敷構から人の気心も純粋の百姓村とは少し違ってる、涼しそうな背戸山では頻りに蜩が鳴いてる・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・再び気が付いて見たら、前夜川から突進した道筋をずッと右に離れたとこに独立家屋があった。その附近の畑の掘れたなかに倒れとった。夜のあけ方であったんやけど、まだ薄暗かった。あたまを挙げてあたりを見ると、独り兵の這いさがるんかと思た黒い影があるや・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・その道筋は軌道を越して野原の方へ這入り込む。この道は暗緑色の草がほとんど土を隠す程茂っていて、その上に荷車の通った轍の跡が二本走っている。 薄ら寒い夏の朝である。空は灰色に見えている。道で見た二三本の立木は、大きく、不細工に、この陰気な・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ 帰る道筋、おじいさんは、うつ向きかげんに歩いて、考えていました。「あの店も、はやらないとみえて、店を閉めるのだな。しかし、生き物を、こんなに、ぞんざいにするようでは、なに商売だって、栄えないのも無理はない。」と、こんなことを考えた・・・ 小川未明 「おじいさんが捨てたら」
出典:青空文庫