・・・真から一歩一歩遠ざかるが故に煩悶はますのである。 思いがけぬ醜い仮面の陰に箇人主義の真心は歎いて居る。 自己完成に思い至らぬ人の心をかこって居る。 私は、何のはばかる物もなく、箇人主義は即ち自己の完成主義であると叫ぶ。 永劫・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・ 矢鱈に自由を拘束しない代りには、子供に悪感化を与える圏境からは出来るだけ遠ざかる。父が事務所に出勤し、一寸芝居でも見に出かけるには如何にも都合よい下町の家があったのだけれども、子供の為に、生理的、精神的に危険が多いから、自分達は着物一・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 舟と舟とは次第に遠ざかる。後ろには餌を待つ雛のように、二人の子供があいた口が見えていて、もう声は聞えない。 姥竹は佐渡の二郎に「もし船頭さん、もしもし」と声をかけていたが、佐渡は構わぬので、とうとう赤松の幹のような脚にすがった。「・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫