・・・荒神橋の方に遠心乾燥器が草原に転っていた。そのあたりで測量の巻尺が光っていた。 川水は荒神橋の下手で簾のようになって落ちている。夏草の茂った中洲の彼方で、浅瀬は輝きながらサラサラ鳴っていた。鶺鴒が飛んでいた。 背を刺すような日表は、・・・ 梶井基次郎 「ある心の風景」
・・・吸い込む。遠心力よりも求心力が強い。」「井伏の小説は、泣かせない。読者が泣こうとすると、ふっと切る。」「井伏の小説は、実に、逃げ足が早い。」 また、或る人は、ご叮嚀にも、モンテーニュのエッセエの「古人の吝嗇に就いて」という章を私・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・人差指に雁首を引掛けてぶら下げておいてから指で空中に円を画きながら煙管をプロペラのごとく廻転するという曲芸は遠心力の物理を教わらない前に実験だけは卒業していた。 いつも同じ羅宇屋が巡廻して来た。煙草は専売でなかった代りに何の商売にもあま・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・そういう声々の発せられるところは求心的であるが、心へ及す形は遠心的で何だか落着けない。子供をたくさんと云っても、女として耳に響いて来る可愛い声々は、そのたくさんの子供たちの丈夫なことを願っていて、いろいろの物資のこともすぐ念頭に浮ぶ。その間・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
出典:青空文庫