・・・ 二 新しい学説が学界から喜んで迎えられるならば、それはその説がその当代の学界の痛切な要求にうまく適合するからであることは明らかである。もう十年も前から世界中の学者が口をもぐもぐさせて云おうとしていたが、適当・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・子供に固有な鋭い直観の力を利用しないで頭の悪い大人に適合するような教案ばかりを練り過ぎるのではないかと思われる節もある。これについては教育者の深い反省を促したいと思っている次第である。 ついでながら、昨年の室戸颱風が上陸する前に室戸・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・しかしともかくも出発点における覚悟と努力の向け方においては自分が本当の南画の精神要旨と考えるものに正しく適合している。狭く南画などとは云わず、一般に芸術というものが科学などの圧迫に無関係に永存し得べき肝心の要素に触接しているように思われるの・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・似非風流や半可通やスノビズムの滑稽、あまりに興多からんことを求めて却って興をさます悲喜劇、そういったような題材のものの多くでは、これをそのままに現代に移しても全くそのままに適合するような実例を発見するであろう。十四世紀の日本人に比べて二十世・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・ところがまたこの象を取り扱う人間もまたあいにくきわめて純良で正直であって、この異郷の動物の気持ちなどをいろいろと推測してそれに適合する事をあえてするにはあまりに高い人格を持っていたのである。こうした二つのものが相接触すればいつかはけんかにな・・・ 寺田寅彦 「解かれた象」
・・・これも元はシナあたりから伝来したものかもしれないが、日本の風土に適合したために土着したものであろう。空気の流通がよくてしかも雨やあらしの侵入を防ぐという点では、バーベリーのレーンコートよりもずっとすぐれているのではないかという気がする。あれ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・なるほどちゃんと五、七、五の音数律には適合している。いわれを聞いてみると、「昔頼朝時代などには鎌倉へんに鶴がたくさんにいて、それに関連した史実などもあったが今日ではもう鶴などは一羽も見られなくなって、世の中が変わってしまった」という感慨を十・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・しかしまた、そうした奇形児がいくらできてもその当時の環境に適合しなければその変形は存続することができなくて死滅したであろうと考えられる。 短歌から連歌への変遷もやはり一種の進化と見られる。たとえば一個のポリプを二つにちぎって、それぞれに・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・雄弁な饒舌は散文に任して真に詩らしい詩を求めたいという、そういう精神に適合するものがまさにこうした短詩形であろう。この意味でまた日本各地の民謡などもこのいわゆるオルフィズムの圏内に入り込むものであるかもしれない。 詩形が短い、言葉数の少・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・そしてそれが近代人の伝統破壊を喜ぶ一種の心理に適合するために、見当違いに痛快がられているようである。しかし相対原理が一般化されて重力に関する学者の考えが一変しても、りんごはやはり下へ落ち、彼岸の中日には太陽が春分点に来る。これだけは確実であ・・・ 寺田寅彦 「春六題」
出典:青空文庫