・・・むしろそれが時勢に適応することだと思っているらしい。 少し作家的反省と自負とがあるならば、これは、単に、資本家の意図にしかすぎないことを知るのである。真の大衆は、最も彼等の生活に親しみのある。いろ/\な真実の言葉を聞こうと欲するにちがい・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・人間もやはり自然界の一存在で、その住んでいる土地に出来るその季節の物を摂取するのが一番適当な栄養摂取方法で、気候に適応する上からもそれが必要で、台湾にいれば台湾米を食い、バナナを食うのが最も自然で栄養上からもそれがよいとのことである。野菜や・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・その際における口のまわりの運動の仕事の大部分が何に使われるかと思ってみると、それは各種の母音に適応するように口腔の形と大きさを変化させるために使われているのである。そしてこういう声を出さずに口だけ動かす読み方では子音を発するに必要な細かい調・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・人間でさえも、ほんの少しばかりいつもより鍔の広い麦藁帽をかぶるともう見当がちがって、いろいろなものにぶっつかるくらいであるから、いかに神経の鋭敏な三毛でも日々に進行するからだの変化に適応して運動を調節する事はできなかったにちがいない。それは・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・るとこれは何も神様が人間の役に立つためにこんないろいろの薬草をこしらえてくれたのではなくて、これらの天然の植物にはぐくまれ、ちょうどそういうものの成分になっているアルカロイドなどが薬になるようなふうに適応して来た動物からだんだんに進化して来・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ところが、何かしらある些細な題目についてやや確実詳細な具体的知識を得たいと思って参考書を捜すとなってみると、さて、なかなか容易に自分の要求に適応する本は見つからないものである。 たとえば、ばらの葉につくチューレンジ蜂の幼虫を駆除するに最・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 思うに、従来はいていた靴のかかとがだいぶ減って低くなっていたので、それに長い間慣らされた足の運びが、今度の新しい靴の少しばかり高いかかとに適応するまでに少しばかり骨が折れたものと見える。 そのうちに、古いほうの靴のゴム底ができて来・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ジャーナリストの側から言わせると、これも読者の側からの強い要求によって代表された時代の要求に適応するためかもしれないのである。 昔はまたよく甲社でたとえば「象の行列」を催して、その記事で全紙の大部分を埋め、そのほとんど無意味な出来事が天・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・今のついさきに思った事とあまりによく適応したからである。 それにしても、その程度の地震で、そればかりで、あの種類の構造物が崩壊するのは少しおかしいと思ったが、新聞の記事をよく読んでみると、かなり以前から多少亀裂でもはいって弱点のあったの・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・他の文句は忘れてしまったが、その当時の自分の心境にこの文句だけが適応したと見えて今でもはっきり記憶に残っている。今から考えてみると日下部博士のようなオリジナルな頭脳をもった人には、多く読み少なく考えるという事はたといしようと思ってもできない・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
出典:青空文庫