・・・ 処女崇拝 我我は処女を妻とする為にどの位妻の選択に滑稽なる失敗を重ねて来たか、もうそろそろ処女崇拝には背中を向けても好い時分である。 又 処女崇拝は処女たる事実を知った後に始まるものである。即ち卒直・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・家の惣菜なら不味くても好いが、余所へ喰べに行くのは贅沢だから選択みをするのが当然であるというのが緑雨の食物哲学であった。その頃は電車のなかった時代だから、緑雨はお抱えの俥が毎次でも待ってるから宜いとしても、こっちはわざわざ高い宿俥で遠方まで・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・教師が媒酌人となるは勿論、教師自から生徒を娶る事すら不思議がられず、理想の細君の選択に女学校の教師となるものもあった。或る女学校では女生の婚約の夫が定まると、女生は未来の良人を朋友の集まりに紹介するを例とし、それから後は公々然と音信し往来す・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・病気をさせない心配から、病気になった時の心配、また、怪我をさせないように注意することから、友達の選択や、良い習慣をつけなければならぬことに気を労する等、一々算えることができないでありましょう。ある時は、それがために、子供を持たない人々を幸福・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・そこで、先ずわれ/\は、最初に自分の感じを抽き出す文字を、あれこれと選択しつゝ紙に書いてみる。それが自分の感じとぴったり合しつゝ書き進むるようならば、もう文章のある域まで達したのであるが、これと反対に思うところ感ずるところが、一字一行にも骨・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・ 私達は、知りつゝ出来ずにいるが、児童の教育に、その先生を選択しなければならぬごとく、書物を求むるに、まず内容の一般を知らなければならない。 こうして、いろ/\と感ぜられるが、所詮良い書物程、私達を喜ばせ、また生活を明るくし、そして・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・とっつきの店のそれもとっつきに値を聞いた古雑誌、それが結局は最後の選択になったかと思うと馬鹿気た気になった。他所の小僧が雪を投げつけに来るのでその店の小僧はその方へ気をとられていた。覚えておいたはずの場所にそれが見つからないので、まさか店を・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・先験的倫理学は実質的にも可能である。選択愛憎等の情緒的な心情もアプリオリの内容を持ち、「心情の秩序」が存在する。道徳価値の把握は知的作用によらず、情緒的な直覚によって価値感知されるのである。これがシェーラーのいわゆる情緒的直覚主義の立場であ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 五 相互選択と男性のイニシアチヴ 青年男女はその性の選択によって相互に刺激し合い、創造と淘汰との作用がおのずと行われる。青年や、娘の美の新しい型が生み出される。これは個人と個人との間だけでなく、ひとつのゼネレーショ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ われわれは生の探求に発足した青年に、永遠の真理の把握と人間完成とを志向せしめようと祈願するとき、彼らがいずれはその理性知を揚棄せねばならぬことを注意せざるを得ず、またその読者の選択を合理的知性に対応する方向のみに向けしむることは衷心か・・・ 倉田百三 「学生と読書」
出典:青空文庫