・・・聞くところによれば現代の小学生は小遣銭を運動費となして、級長選挙の事に狂奔することを善事となしているというではないか。 市中行賈の中、恰も雁の去る時燕の来るが如く、節序に従って去来するものは、今の世に在っても往々にして人の詩興を動かす。・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・普通選挙だの労働問題だの、いわゆる時事に関する論議は、田舎訛がないとどうも釣合がわるい。垢抜けのした東京の言葉じゃ内閣弾劾の演説も出来まいじゃないか。」「そうとも。演説ばかりじゃない。文学も同じことだな。気分だの気持だのと何処の国の託だ・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・ だいたい今まで中学が少な過ぎたために、県で立てたのが二つ、その当時、衆議院議員選挙の猛烈な競争があったが、一人の立候補が、石炭色の巨万の金を投じて、ほとんどありとあらゆる村に中学を寄付したその数が五つ。 こんなわけで、今まで七人も・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・「いいや、山猫の野郎、来年の選挙の仕度なんですよ。ただで酒を呑ませるポラーノの広場とはうまく考えたなあ。」「この春からかわるがわるこうやってみんなを集めて呑ませたんです。」「その酒もなあ。」「そいつは云うな。さあ一杯やりませ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・工場の大衆から選挙された工場委員会があって、その委員会がいくつかの専門部に分れている。例えば技術詮衡部衛生部その他重要な生産計画部、文化部などがあって、どんな大工場の管理者でもこの工場委員会の決定に従って行動しなければならないようになってい・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ 一九三〇年に入ってから、ヒトラーのナチスは総選挙で多数党となり、ドイツの全人民が知識階級をもこめて、その野蛮な軛の下に苦しむ第一歩がふみ出された。どうして、第一次ヨーロッパ大戦後のドイツに、ヒトラーの運命が、そんな人気を博したのであっ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
一 このたびのアメリカ大統領選挙は、まったく世界の広場のまんなかで、世界じゅうの注目をあつめて、たたかわれた。どこの国でも日本のように共和党の候補者デューイの当選が確実だと、あれほど宣伝されていた・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・公務員法をむりやりとおしてはじめからきらわれている吉田内閣は新しい選挙をひかえて、いくらかでも人気をとりかえすために食糧問題や転入自由の景品をだしました。「住宅問題の解決や賃金問題の解決はぬきにして」きたるべき選挙に今日の政府は勝算をもって・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
日本の新しい出発にとって意義深い総選挙は、四月十日に行われ、十五日までには全国の成果が知らされた。 前もって数えられていた全国の有権者は三千九百八万九百九十人といわれ、そのうち婦人有権者は二千九十一万七千五百九十三人と・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ために代議制を立てられたのであるが、選挙権を有する人々は、万民の志を阻止して党利をのみはかるような代議士を選出した。そうすると選挙権者もまた全体として聖勅に違背したことになる。皆不忠である。父はこれまで選挙について奔走したことがない。万民の・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫