・・・日本芸術の遺産の中で能は独特な評価をもってみられ、それがわかるのが文化を理解するものの当然の嗜みと考えられている。 それはそうあってさしつかえないのだと思う。でも、女店員がその謡曲による仕舞を稽古するということに果してどこまで働く女性の・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・文化擁護国際作家大会」を開催させた。会議はパリで開かれ、参集国は日本を除く二十八ヵ国、代表者は二百三十名。まことに興味ある次の如き議題で世界的に討論された。一。文化遺産二。ヒューマニズム三。民族と文化四。個人五。思想の尊・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・それは、偉大で才能ある過去、或は現在のブルジョア作家の一生とそこにのこされている文学的業績とから私達が遺産として価値あるものを獲て行こうと努力する場合、私たちの探求の中心は常にその作家の生活態度の中に現れ、従って各作品に鋭くふくまれて出てい・・・ 宮本百合子 「作家研究ノート」
・・・ 有島武郎とまたちがった意味で時代の苦痛に身を曝した芥川龍之介の死は、その遺書の中に、「僕の遺産は百坪の土地と僕の家と僕の著作権と僕の貯金二千円のあるだけである。僕は僕の自殺した為に僕の家の売れないことを苦にした。従って別荘の一つももっ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ ソヴェトで、オペラは、過去からの遺産というはっきりした観点から扱われている。ソヴェトの新しい音楽家は、その大きな遺産をどう利用し、社会主義的な社会の感覚にふさわしい新形式へ進めるかという点で、大きな課題を与えられているわけなのだ。・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 奈良の僧侶の多くの者は、祖先の遺産が沢山すぎ立派すぎて或る点スポイルされていると私は思った。種々な人間が、天平、弘仁の造形美術の傑作を研究し、観賞しに奈良を訪ねる。本当の芸術愛好家なら、仏教の信仰をそのものとして奉持しなくても、美から来る・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・日本の従来の如く、父の没後は長子が戸主となって、事業から交際まで主となって引継ぎをしなければならないのとは異い、幾人か同胞があれば交際、事業などは各自の選択によって行っている場所では、特に長子が多分の遺産を相続する必要がありません。 子・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・今日、私の貧弱な常識の中に、ほんの少しばかりでも建築・美術についての内容が加えられているのは殆ど皆、こういう父の手帳を中心にしてこの団欒の遺産です。 晩年になってから、父は夕飯後の食堂で手帳をひろげることが追々少くなりました。仕事に対す・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・西欧文学の波にうごかされ、高らかにロマンティシズムの調を謳いつつ、藤村の詩がその第一詩集から形式・用語において過去の日本文学和文派の遺産の上に立っていたことは、自然に身をうちまかせる彼の情緒の本質がやはり自然への逃避の性質を多分にもっていた・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・この面は、プロレタリア文学の遺産の継承に関する討論と等しく、わたくしには非常に静的に論議されていると感じられました。例えば、組合の闘争において、権力との闘いにおいて、プロレタリアートの全線にプラスするどんな小さな成果も、わたしたちはそれを念・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
出典:青空文庫