・・・小粒ながらも胡椒のきいたその移動演劇は、ナチスにとっては小柄な蜂のように邪魔であった。エリカは、舞台のうえにいていくたびか狙撃された。が、無事に千回以上の公演をつづけたが、一九三六年、解散させられた。チューリッヒで、「公安妨害」の口実で公演・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・嫡子光尚の周囲にいる少壮者どもから見れば、自分の任用している老成人らは、もういなくてよいのである。邪魔にもなるのである。自分は彼らを生きながらえさせて、自分にしたと同じ奉公を光尚にさせたいと思うが、その奉公を光尚にするものは、もう幾人も出来・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・「結構や。」「お前この間、銭持ってたの、どうしたぞ。それだけ欲しいもんでも買う方が好かろが?」「火ん中へ燻べて了うた。」「燻べた!」「邪魔になって仕様がない。」「たあいもない。どうや、あんな物燻べて何んにもならんやな・・・ 横光利一 「南北」
・・・ エルリングに出逢って、話をし掛けた事は度々あったが、いつも何か邪魔が出来て会話を中止しなくてはならなかった。 ある晩波の荒れている海の上に、ちぎれちぎれの雲が横わっていて、その背後に日が沈み掛かっていた。如何にも壮大な、ベエトホオ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・真の演技の邪魔となるに過ぎない。彼女にとっては最も大なる瞬間は最も深い静寂の時である。情熱を表現するにはこれを抑制した所を見せる。内心の擾乱をじっと抑えて最後に痛苦を現わす眼のひらめき、えくぼの震えとなる。ベルナアルのように動作と叫び声とで・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫