・・・ 十七日、朝早く起き出でたるに足傷みて立つこと叶わず、心を決して車に乗じて馳せたり。郡山、好地、花巻、黒沢尻、金が崎、水沢、前沢を歴てようやく一ノ関に着す。この日行程二十四里なり。大町なんど相応の賑いなり。 十八日、朝霧いと深し。未・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・途中、郡山駅爆撃。午後九時半、小牛田駅着。また駅の改札口の前で一泊。三日分くらいの食料を持参して来たのだが、何せ夏の暑いさいちゅうなので、にぎりめしが皆くさりかけて、めし粒が納豆のように糸をひいて、口にいれてもにちゃにちゃしてとても嚥下する・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ 汽車が郡山駅に着きました。駅は、たったいま爆撃せられたらしく、火薬の匂いみたいなものさえ感ぜられたくらいで、倒壊した駅の建物から黄色い砂ほこりが濛々と舞い立っていました。 ちょうど、東北地方がさかんに空襲を受けていた頃で、仙台は既・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・ ○今度の朝鮮人の陰謀は実に範囲広く、山村の郷里信州の小諸の方にも郡山にも、毒薬その他をもった鮮人が発見されたとのことだ。 九月二十四五日より大杉栄ほか二名が、甘粕大尉に殺された話やかましく新聞に現れた。福田戒厳令司令官が山・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
一九二〇年三月二十二日 郡山は市に成ろうとして居る。桑野は当然その一部として併合されるべきものである。村の古老は、一種の郷土的愛から、その自治権を失うことを惜しみ、或者は村会議員として与えられて居た名誉職を手放す事をな・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・「まあ、貴方、郡山さ芝居が掛りましたぞえ、東京の名優、尾上菊五郎ちゅうふれ込みでない。外題は、塩原多助、尾上岩藤に、小栗判官、照手の姫、どんなによかろう。見たいない。 祖母の顔を見るやいなや、婆さんは、飛び立った様にその小さ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・一里ばかり離れた郡山の町から一直線の新道がつくられて、そのポクポク道をやって来たものはおのずから村を南北に貫通している大通りへぶつかり、その道を真っ直ぐ突切ると爪先上りの道は同じ幅で松の植込みのある、いくらか昔話の龍宮に似た三層楼の村役場の・・・ 宮本百合子 「村の三代」
出典:青空文庫