・・・学術部長のウィーゼ博士は物静かで真摯ないかにも北欧人らしい好紳士で流暢なドイツ語を話した。この人からいろいろ学術上の仕事の話を聞いた後に「日光は見たか」と聞いたら「否」、「芝居は」と聞いたら「否」と答えたきりで黙ってしまった。海流の研究の結・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・ところが部長と喧嘩してね、そいつをぶんなぐってやめてしまったんだ。商売をやるたって金もないしね、やっとその顕微鏡を友だちから借りてこの商売をはじめたんだ。同情してくれ給え。」ペンキ屋「だって、そんな先月まで交通整理だかやっていて俄かに医・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・ 顔役で、部長の勘助が兵児帯をなおしながら立ち上った。「ちょっくら見て来べえ、万一何事かおっ始まってるに、おれたちゃあ酒くらって知んねえかったといわれたらなんねえ」 勘助が、もう一人と暗い土間で履物を爪先探りしている時、けたたま・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ 彼は、印度人で、幼少の時から英国で教育され、今はボストン博物館で、東洋美術部の部長か何かをしながら、印度芸術の唯一の紹介者として世界的な人物になっているのである。 面長な、やや寥しい表情を湛えた彼が、二階の隅の、屋根の草ほか見えな・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・第一房の鉄扉があけ放され、その外では主任、特高、部長、看守が首をのばして内をのぞいているところへ、入るべき場所でないところへ入ったと云う風な表情と恰好をして中年の町医者が及び腰で出て来るところである。うしろの方に佇んでいる自分に看守が、・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・と侮蔑的に第一部長の東北弁をまねられているところも、「嵐のあとさき」昭和七年度の記述と、ほとんどそのままである。山口氏の文章の片仮名が、丹羽氏の小説では平仮名にかかれ、いくらか内面的な記述が加わっているが。 山口一太郎氏の二・二六真相が・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・ 翼賛会の国民生活指導部長喜多氏は、十三日の朝日新聞へ、国民的訓練の欠如、健全な娯楽の指導の必要としてこの事件を観察し、そこに学生の多かったことは特別反省すべきことだと、「昨夜もあすこへ行って学生を呼んで叱りとばしたが今の時代、学生は娯・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・ 一方、教育部は、いま日本女のとなりに腰かけて、注意深く舞台と若い観衆との間におこる呼吸のメリ、ハリを観察している白い髯の教育部長をはじめ、どうしたら子供をよろこばせ、しかもその間に労働、政治、科学、芸術の訓練をあくまで社会主義的主題の・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 三日の夕方、東交代表河野争議部長が、下唇を突出し気味に背中を堅くして椅子にかけている山下局長に向って整理案撤回要求書を差し出しているところを撮った写真が出た。でっぷり太った角がりでチョビ髭を生やした河野が詰襟服姿で起立し、要求書の両端・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・翼賛会の初代の文化部長岸田国士、つづいて同じ位置についた高橋健二その他の人々は、文化の擁護のために何事もなさなかった。一九三〇年代のはじまりに「文学の純芸術性」を力説した菊池寛、中村武羅夫等の人々が、この時期に率先して文化の軍事的目的のため・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫