・・・しかし蘆荻蒹葭は日と共に都市の周囲より遠けられ、今日では荒川放水路の堤防から更に江戸川の沿岸まで行かねば見られぬようになった。中川の両岸も既に隅田川と同じく一帯に工場の地となり小松川の辺は殊に繁華な市街となっている。 蒹葭は秋より冬に至・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ お前の轢殺車の道に横わるもの一切、農村は蹂られ、都市は破壊され、山野は裸にむしられ、あらゆる赤ん坊はその下敷きとなって、血を噴き出す。肉は飛び散る。お前はそれ等の血と肉とを、バケット・コンベヤーで、運び上げ、啜り啖い、轢殺車は地響き立・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・の中に、完全に燈火管制された都会の夜の物凄い気持を、自ら仮死状態に陥った都市の凄さを描いている。レーンの小説「戦争」又はレマルクの「西部戦線異状なし」バルビュスの「砲火」などを読んだ人々は、燈火管制下の夜の凄さというものは、仮死どころか、そ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・それは日本の内にひそんでいる戦争挑発者によってそそのかされてジャーナリズムの上に現れるばかりでなく、在パリその他の外国都市に生活する人、旅行している人々の通信が、ルポルタージュの形をとりながら大きく歪曲をふくんでいる場合が少くない。 ま・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・その頃の千駄木林町と云えば、まことに寂しい都市の外廓であった。 表通りと云っても、家よりは空地の方が多く、団子坂を登り切って右に曲り暫く行くと忽ち須藤の邸の杉林が、こんもり茂って蒼々として居た。間に小さく故工学博士渡辺 渡邸を挾んで、田・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・そういう社会構成の上にギリシアの自由都市は築かれていた。アナキネの物語は、ギリシアの社会に、婦人の本当の自由がなかったこととともに、女に課せられている紡織仕事に対し疑いをもっていたことがうかがわれる。 ジュノーとアナキネの関係が織り紡ぐ・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・広島を平和都市に!長崎を国際都市に!ノーモア・ヒロシマズ! ついこの間までラジオは、やさしい抑揚をつけてそう語った。被原爆地に、眼病のなかでも不治とされる「そこひ」が発生していると報ぜられている。 日本の一部の人・・・ 宮本百合子 「いまわれわれのしなければならないこと」
・・・欧州の都市においてはこのように小さな街路樹はただ新開の街にしか見ることができない。少しく立派な街ならば街路樹は風土相応の大木となっている。また大木とならなければ美しい街になることはできぬのである。街路から電線を取り除くことが不可能であるなら・・・ 和辻哲郎 「城」
・・・この不足のゆえに公共生活の訓練が不充分であり、従ってあらゆる都市の経営が根柢を欠いている。日本人はまだ都市の公共性を理解しない、これが著者の嗟嘆の一つである。しかしこのことは否定の否定が実現せられ得るためにまず第一の否定が明白に行なわれねば・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
・・・敦煌までの間にそういう都市は、ずいぶん多く栄えていたであろう。そうしてそういう都市は、仏教を受け入れ、それをその独自の立場で発展させることをさえも企てていたのである。仏教美術がそこで作られたことももちろんであるが、木材や石材に乏しいこの地方・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫