・・・などと、大酒飲みの君に向って言う。 馬鹿らしい事であったが、しかし、あれも今ではなつかしい思い出になった。僕たちは、図に乗って、それからも、しばしば菊屋を襲って大酒を飲んだ。 菊屋のおじさんは、てんでもう、縁談なんて信用していないふ・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・しかし、だんだん話合ってみると、私の同級生は、たいてい大酒飲みで、おまけに女好きという事がわかり、互に呆れ、大笑いであった。 小学校時代の友人とは、共に酒を飲んでも楽しいが、中学校時代の友人とは逢って話しても妙に窮屈だ。相手が、いやに気・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・ただ、楠さんの細君が亡くなり、次にひどく酒飲みになった楠さんも若死をしたこと、亀さんが医師の家に書生をしていて、後に東京へ出て来てどこかの医者の代診をしているという噂を聞いたように思うだけである。 幼時を追想する時には必ず想い出す重兵衛・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・六百年昔の酒飲みも今日の呑んだくれとよく似ている。それで絶対に禁酒を強調するかと思っていると、「おのづから捨てがたき折もあるべし」などとそろそろ酒の功能を並べているのもやはり「科学的」なところがある。 勝負事を否定するかと思うと、双六の・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・年もゆかないのに大酒飲みやさかえ、私も心配でこの間少しいることがあって千円ばかり送るように言ってやったけれど、何とも返事がない」「ここに借金かね」「借金といっては別にあるわけもないけれど……」お絹は微笑した。「とにかくここを続け・・・ 徳田秋声 「挿話」
○一つ橋外の学校の寄宿舎に居る時に、明日は三角術の試験だというので、ノートを広げてサイン、アルファ、タン、スィータスィータと読んで居るけれど少しも分らぬ。困って居ると友達が酒飲みに行かんかというから、直に一処に飛び出した。いつも行く神保・・・ 正岡子規 「酒」
・・・一番年かさなのは後家で酒飲みの裁縫女の息子グリーシュカ。これは分別の深い正しい人間で、熱情的な拳闘家である。 後年、ゴーリキイは当時を回想して書いている。かっ払いは「半飢の小市民にとって生活のための殆ど唯一の手段、習慣となっていて、罪と・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫