・・・早い話が牡丹の花片のひたしもの、芍薬の酢味噌あえ。――はあはあと、私が感に入って驚くのを、おかしがって、何、牡丹のひたしものといった処で、一輪ずつ枝を折る殺風景には及ばない、いけ花の散ったのを集めても結構よろしい。しかし、贅沢といえば、まこ・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・うぐいと蓴菜の酢味噌。胡桃と、飴煮の鮴の鉢、鮴とせん牛蒡の椀なんど、膳を前にした光景が目前にある。……「これだけは、密と取りのけて、お客様には、お目に掛けませんのに、どうして交っていたのでございましょうね。」――「いや、どうもそ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・大江山の鬼が食べたいと仰しゃる方があるなら、大江山の鬼を酢味噌にして差し上げます。足柄山の熊がお入用だとあれば、直ぐここで足柄山の熊をお椀にして差し上げます……」 すると見物の一人が、大きな声でこう叫りました。「そんなら爺い、梨の実・・・ 小山内薫 「梨の実」
・・・の鉄火巻と鯛の皮の酢味噌、その向い「だるまや」のかやく飯と粕じるなどで、いずれも銭のかからぬいわば下手もの料理ばかりであった。芸者を連れて行くべき店の構えでもなかったから、はじめは蝶子も択りによってこんな所へと思ったが、「ど、ど、ど、どや、・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
出典:青空文庫