・・・正味は、酸性でもアルカリ性でもありはしない。ただの水にすぎません。」 この評論家の文章は、おそらく彼と同じ程度の教養をもっている科学その他の専門分野の同年輩人をおどろかせる言葉だろうと思う。塩と水さえあれば、ともかく命がつなげる。人類の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・を読み、私は鼻の奥のところに何ともいえぬきつい苦痛な酸性の刺戟を感じた。昔の人は酸鼻という熟語でこの感覚を表現した。更に「地底の墓」「落日の饗宴」とを読み、いくつかの「新人論」を瞥見し、私は、文学に、何ぞこの封建風な徒弟気質ぞ、と感じ、更に・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・試験管を挾んで火にあたためて、薬の一二滴を落してふって色の変ったところを眺めたり、アルカリ反応、酸性反応と細く小さい試験紙をいじったこと、それらが淡い光景となって想い出される。今は女学校の化学もきっと大変ちがった教えかたをされているだろうと・・・ 宮本百合子 「私の科学知識」
出典:青空文庫