・・・禅か、法華か、それともまた浄土か、何にもせよ釈迦の教である。ある仏蘭西のジェスウイットによれば、天性奸智に富んだ釈迦は、支那各地を遊歴しながら、阿弥陀と称する仏の道を説いた。その後また日本の国へも、やはり同じ道を教に来た。釈迦の説いた教によ・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・観音、釈迦八幡、天神、――あなたがたの崇めるのは皆木や石の偶像です。まことの神、まことの天主はただ一人しか居られません。お子さんを殺すのも助けるのもデウスの御思召し一つです。偶像の知ることではありません。もしお子さんが大事ならば、偶像に祈る・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・ 我ら会員は相次いでナポレオン、孔子、ドストエフスキイ、ダアウィン、クレオパトラ、釈迦、デモステネス、ダンテ、千の利休等の心霊の消息を質問したり。しかれどもトック君は不幸にも詳細に答うることをなさず、かえってトック君自身に関する種々のゴ・・・ 芥川竜之介 「河童」
一 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあた・・・ 芥川竜之介 「蜘蛛の糸」
・・・すると王城を忍び出た後、ほっと一息ついたものは実際将来の釈迦無二仏だったか、それとも彼の妻の耶輸陀羅だったか、容易に断定は出来ないかも知れない。 又 悉達多は六年の苦行の後、菩提樹下に正覚に達した。彼の成道の伝説は如何に・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・九 さりながらまたその人がどこまでも一つの道を進む時、その人は人でなくなる。釈迦は如来になられた。清姫は蛇になった。一〇 一つの道を行く人が他の道に出遇うことがある。無数にある交叉点の一つにぶつかることがある・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・錦重堂板の草双紙、――その頃江戸で出版して、文庫蔵が建ったと伝うるまで世に行われた、釈迦八相倭文庫の挿画のうち、摩耶夫人の御ありさまを、絵のまま羽二重と、友染と、綾、錦、また珊瑚をさえ鏤めて肉置の押絵にした。…… 浄飯王が狩の道にて――・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・「聖人になりたい、君子になりたい、慈悲の本尊になりたい、基督や釈迦や孔子のような人になりたい、真実にそうなりたい。しかしもし僕のこの不思議なる願が叶わないで以て、そうなるならば、僕は一向聖人にも神の子にもなりたくありません。「山林の・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 彼は釈迦の予言をみたすために出世したものとして自己の使命を自覚した。あたかもあのナザレのイエスがイザヤの予言にかなわせんため、自己をキリストと自覚したのと同じように。釈迦の予言によれば、釈迦滅後、五百歳ずつを一区画として、正法千年、像・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・されど味のわろからぬまま喰い尽しけるに、半里ほど歩むとやがて腹痛むこと大方ならず、涙を浮べて道ばたの草を蓐にすれど、路上坐禅を学ぶにもあらず、かえって跋提河の釈迦にちかし。一時ばかりにして人より宝丹を貰い受けて心地ようやくたしかになりぬ。お・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
出典:青空文庫