・・・そして、病気ではご飯たきも不自由やろから、家で重湯やほうれん草炊いて持って帰れと、お辰は気持も仏様のようになっており、死期に近づいた人に見えた。 お辰とちがって、柳吉は蝶子の帰りが遅いと散々叱言を言う始末で、これではまだ死ぬだけの人間に・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ その次の日又重湯を運んでやり、歩けるようになる迄、粥をやるのがいしの任務であった。仙二は、苦笑しながら半分冗談、半分本気で云った。「あげえ業の深けえ婆、世話でも仕ずに死なしたら、忘れっこねえ、きっと化けて出よるぜ」 沢や婆は、・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・ 牛乳と、スープと重湯を時間をきめてたべさせるさしずに主婦は常よりも余程いそがしいらしかった。 只猫可愛がりになり勝な二十七になる女中は、主婦がだまって居ると、涼しい様にと、冷しすぎたものを持って行ったり、重湯に御飯粒を入れたり仕が・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
出典:青空文庫