・・・ですから茂作が重病になると、稲見には曽祖母に当る、その切髪の隠居の心配と云うものは、一通りや二通りではありません。が、いくら医者が手を尽しても、茂作の病気は重くなるばかりで、ほとんど一週間と経たない内に、もう今日か明日かと云う容体になってし・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・れも人のいない船が一そう、上手から流れて来たので、高橋さんはそれに乗りうつり、氏一人を見かねてとびこんで来た河田軍医と二人で、岸から岸へ綱をわたし、それをたよりに、わずか一そうの船で、すべての患者を、重病者はたんかへ乗せたまま、一人ものこら・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・しかし例えば医師が重病患者の死期を予報するような意味においてならばあるいは将来可能であろうと思う。しかし現在の地震学の状態ではそれほどの予報すらも困難であると私は考えている。現在でやや可能と思われるのは統計的の意味における予報である。例えば・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ 複雑な重病にかかったとき私たちはどういう医者を求めるだろう。決して、おさすり町医は求めない。真に科学的にその病原を追究して、科学の方法によって治療することを知っている医者を求める、癒りたい、という欲求をはっきり押し出して、医者をさがす・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・それより前に、ゴーリキイが重病であるという記事を新聞で読み、毎朝新聞を開く毎にその後の報知が心にかかっていた。新しい憲法草案公表のことが報道された時、私はその事から動かされた自分の感情の裡に、ゴーリキイが自分の生涯の終りに於てこの輝かしい日・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・それより前に、ゴーリキイが重病であるという記事を新聞で読み、毎朝新聞を開くごとにその後の報知が心にかかっていた。新しい憲法草案公表のことが、報道された時、私はその事から動かされた自分の感情のうちに、ゴーリキイが自分の生涯の終りに於てこの輝か・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫