・・・を描き出そうとしたのであろうが、作品の現実は、それとは逆に如何にも文壇的野望とでもいうようなものの横溢したものとなっていた。作者はその一二年来文学及び一般の文化人の間で論議されながら時代的の混迷に陥って思想的成長の出口を見失っていた知性の問・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 中堅と云われ、旺に作品活動をしながら今日のこういう要求に身をさらしている作家たちの在りようは、いずれもなかなか野望に満ちているし、文学上の身ぶりも大きく、埃も泥も物かはという風であるが、それが猶且つ、文学に何かを求めている今日の感情に・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・の活動にあった弱点から押しても、現在文学的野望に燃える多数の作家たちが、プロレタリア文学における独特な長所を発見しようと志し、同時に、芸術作品の構成の豊富さ、諧調における明暗の濃さ、力感のつよさなどを追求するのはむしろ必然だと思う。われわれ・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ 伊藤氏が健全な人間的作家としての野望を抱く現代青年の心的事実の代弁者であるならば、小樽の街上を袂を翼に舞ったり下ったりする戯画化された小林の粗末な描写で、歴史的重要さが求めているだけの批判をなしているとみずから承認されはしないであろう・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・バルザックが実際社会に日夜接触する男たちは、自身の没落によってか、さもなければ成り上りの野望の成就、そのための陰謀、偽善、買収のために疲れ、心配気で、本当の笑顔を失った男たちばかりである。テエヌは十九世紀初頭の「パリは全世界のあらゆる思想が・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ きょうのファシズムは、決して数年前までのようにむき出しに帝国主義の野望をいいあらわさない。日本でさえ、ファシズムは、日本の民主的発展のためという。生産復興のため、平和のため、と形容する。けれども、ここに一人の人があって、真面目に知人と・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・ しかし、幸いなことには私は、作品の上で成功しようと思う野望は他人よりは少い。いやむしろ、そんなものは希としては持っているだけで、成功などということはあろうとは思えないのである。これは前にも書いたことで今始めて書くことではないが、作品の・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫