・・・二種の流俗が入り交った現代の日本に処するには、――近藤君もしっかりと金剛座上に尻を据えて、死身に修業をしなければなるまい。 近藤君に始めて会ったのは、丁度去年の今頃である。君はその時神経衰弱とか号して甚意気が昂らなかった。が、殆丸太のよ・・・ 芥川竜之介 「近藤浩一路氏」
・・・……門も朱塗だし、金剛神を安置した右左の像が丹であるから、いずれにも通じて呼ぶのであろう。住職も智識の聞えがあって、寺は名高い。 仁王門の柱に、大草鞋が――中には立った大人の胸ぐらいなのがある――重って、稲束の木乃伊のように掛っている事・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・――南無大師、遍照金剛ッ! 道の左右は人間の黒山だ。お捻の雨が降る。……村の嫁女は振袖で拝みに出る。独鈷の湯からは婆様が裸体で飛出す――あははは、やれさてこれが反対なら、弘法様は嬉しかんべい。万屋 勝手にしろ、罰の当った。人形使 南・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 勝軍地蔵か祇尼天か、飯綱の本体はいずれでも宜いが、祇尼は古くからいい伝えていること、勝軍地蔵は新らしく出来たもの、だきには胎蔵界曼陀羅の外金剛部院の一尊であり、勝軍地蔵はただこれ地蔵の一変身である。大日経巻第二に荼枳尼は見えており、儀・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・額には油汗がぎらぎら浮いて、それはまことに金剛あるいは阿修羅というような形容を与えるにふさわしい凄まじい姿であった。私たち夫婦はそれを見て、実に不安な視線を交したが、しかし、三十秒後には、彼はけろりとなり、「やっぱり、ウイスキイはいいな・・・ 太宰治 「親友交歓」
出典:青空文庫