・・・ 君は今君の仲間と、日本の海辺を歩きながら、金泥の霞に旗を挙げた、大きい南蛮船を眺めている。泥烏須が勝つか、大日おおひるめむちが勝つか――それはまだ現在でも、容易に断定は出来ないかも知れない。が、やがては我々の事業が、断定を与うべき問題であ・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・色紙、短冊でも並びそうな、おさらいや場末の寄席気分とは、さすが品の違った座をすすめてくれたが、裾模様、背広連が、多くその席を占めて、切髪の後室も二人ばかり、白襟で控えて、金泥、銀地の舞扇まで開いている。 われら式、……いや、もうここで結・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ と腰袴で、細いしない竹の鞭を手にした案内者の老人が、硝子蓋を開けて、半ば繰開いてある、玉軸金泥の経を一巻、手渡しして見せてくれた。 その紺地に、清く、さらさらと装上った、一行金字、一行銀書の経である。 俗に銀線に触るるなどと言・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・ 大騒ぎで褞袍を脱がせ、それを自分が羽織ったなりで里栄は今まで着ていた長襦袢を先ず着せ、青竹色の着物を着せ、紅塩瀬に金泥で竹を描いた帯まで胸高に締めさせられた章子の様子には、ひろ子も腹をいたくした。「なんえ、これ! かわいそうな目に・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・死んで蘇る妃は、「十二ひとへにしやうずき、紅のちしほのはかまの中をふみ、金泥の法華経の五の巻を、左に持たせ給ふ」などと描かれている。これは全然日本的な想像である。のみならず、苦しむ神の観念は、仏典と全然縁のないらしい、民間説話に基づいた物語・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫