・・・鏡は金粉を塗った額縁に収められているのである。北側の入口には赤と黒との縞のよごれたモスリンのカアテンがかけられ、そのうえの壁に、沼のほとりの草原に裸で寝ころんで大笑いをしている西洋の女の写真がピンでとめつけられていた。南側の壁には、紙の風船・・・ 太宰治 「逆行」
・・・全部がこしらえものである。金粉を振ったのは大きな失敗でこれも展覧会意識の生み出した悪い企図である。 速水御舟の「家」の絵は見つけどころに共鳴する。しかしこれはむしろやはり油絵の題材でないか。とにかくこの人の絵はまじめであるがことしのは失・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・暴っぽいラクシャンの第一子が金粉の怒鳴り声を夜の空高く吹きあげた。「ヒームカってなんだ。ヒームカって。ヒームカって云うのは、あの向うの女の子の山だろう。よわむしめ。あんなものとつきあうのはよせと何べんもおれが云ったじゃな・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・お日さまが、いつもより金粉をいくらかよけいに撒いていらっしゃるのよ。」 黄色な花は、どちらもだまって口をつぐみました。 その黄金いろのまひるについで、藍晶石のさはやかな夜が参りました。 いちめんのきら星の下を、もじゃもじゃのまな・・・ 宮沢賢治 「まなづるとダァリヤ」
・・・絶壁のように厚い雲の割目から爽やかな水浅黄の空が覗いて、洗われた日光がチラつく金粉を撒き始めます。此の軽い大気! 先生、うんざりする雨の後に、急に甦って輝く森林や湖水、其等の上に躍る日光は、何と云う美くしさでございましょう。水溜を跳び越えな・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・日光が金粉をまいたように水面に踊って、なだらかな浪が、彼方の岸から此方の岸へと、サヤサヤ、サヤとよせて来るごとに、浅瀬の水草が、しずかにそよいで居る。 その池に落ち込む小川も、又一年中、一番好い勢でながれて居る。はるかな西のかん木のしげ・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・細かいその仕事は金粉や銀粉をつかってする仕事だから、たった一つの電燈の光でも四畳半の穢い部屋の中では随分美しく、立派に光りさえもするが、何にしろそういう仕事で食って行かなければならない。その中へ、来月纏ったお金が入る。お金が入ったら、何と何・・・ 宮本百合子 「百銭」
出典:青空文庫