・・・ するとわきから、ミソッ歯で金髪の少年が、「おや、あなたわたし達のドゥーシャに会わなかったんですか」「ドゥーシャは、このひとたちの来る前にもうリョーリャの見舞いに行ったんですヨ」「リョーリャって誰です」「やっぱり子供の家・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・ライラック色のルバシカに金髪を輝やかした青年と、黒い上着を着て白っぽいハンティングをかぶったもう一人の青年とが、或る日その屋上へ出て来て愉快そうに談笑しながら、小さいカメラを出して互に互の写真をとりあっている。こっちの窓から其光景を遠く眺め・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ まぶしいような金髪で、赤い頬で、白衣をまくりあげた片腕いっぱいにうずたかくパンをかかえたまま、ターニャは猫をテーブルの上から追った。 ――今日はどう? あんたのチビさんの御機嫌は。 ――オイ! とてもさかんに体育運動をやってま・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・帽子をぬいだら金髪が三等車の隅の明りで見なれぬ美しさにかがやいた。 その女は旅行なれた風で、暫くするとその小鞄を膝の上で開け、地味な室内着を出して、坐ったまま上から羽織った。脚を揃えて坐席の上へあげ、静かに板の上へ横になった。 ソヴ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 労農通信員のマルーシャが、みんなにからかわれながら、額におちてくる金髪をふりあげふりあげ上気した顔をして小形写真機を覗いている。マルーシャは労働者新聞に自分達工場の婦人デーの模様を書き、何とかして、この罪のない、おどけたアガーシャ小母・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・少女は十一二で際立って美しい素直な金髪を持っていた。紺サージの水兵帽からこぼれたおかっぱが、優美に、白く滑らかな頬にかかっている。男の子のようにさっぱりした服の体を二つに折り、膝に肱をついた両手で顔をかくしている。彼女は、正直な乱暴さで、ぐ・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・淑貞にとっても、金髪で碧い眼の面々、中国にいるアメリカ人とはどことなく違うここのアメリカ人である人々は、やはり退屈に思える。 或る日、C女史の晩餐に李牧師とその息子の天錫が招待されて来た。天錫の静かな慎しみぶかさや、生粋な中国の聰明さに・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ ジェルテルスキーは長い椅子からたちながら、金髪をかき上げ、水のような碧い眼を訝しげに動かした。柱時計は二時十五分を示している。ジェルテルスキーは、靴をはいた足の長さの三分の一は確にあまる浅い階子段を注意深く下りて行った。「来ます?・・・ 宮本百合子 「街」
・・・白い上被りの中で彼女は若々しい赧ら顔と金髪と大きな腹をもった綿細工人形みたいだ。 ターニャは姙娠八ヵ月だ。午後四時まで第一大学附属内科の婦人部で働いた。夜はラブ・ファクへ通ってダルトンプランの教育を受けた。一間に一間半もある大ペチカのあ・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
・・・ ワーニカは、マトリョーナの赤い頬っぺたと、そこへおちてる金髪を眺めた。 ――マクシムに私注意した、もう。でもあいつがそれをきかない訳知ってる? マトリョーナだからさ! 私が。 ワーニカは思わず笑い出し、だんだん大きな口あけて笑・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
出典:青空文庫