・・・ しかしこんな田園詩のなかにも生活の鉄則は横たわっている。彼らはなにも「白い手」の嘆賞のためにかくも見事に鎌を使っているのではない。「食えない!」それで村の二男や三男達はどこかよそへ出て行かなければならないのだ。ある者は半島の他の温泉場・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・という偶然の個別現象に興味があり、また論文を発表したある若い学者がちょうどその晩よそへ遊びに行ってそこで合奏をやっていた事実に意義を認めるのであるが、それを事実有りのまま書いたのでは、ジャーナリズムの鉄則に違反するものと見える。こういう事実・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・悪い年回りはむしろいつかは回って来るのが自然の鉄則であると覚悟を定めて、良い年回りの間に充分の用意をしておかなければならないということは、実に明白すぎるほど明白なことであるが、またこれほど万人がきれいに忘れがちなこともまれである。もっともこ・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・と、可憐にも当時の不十分に心の深められていなかった鉄則に屈することが、描かれているのである。 片岡氏は、当時のブルジョア道徳が逆宣伝的に、階級闘争に従う前衛のはなはだしく困難な生活の中に、不可避的に起ったさまざまの恋愛錯雑を嘲笑したのに・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・これは支配の鉄則とされていた。心のしっかりした農村の人々は今日のこの一銭切手を何と見るだろう。私はそう思って丁寧に、四銭の封緘にはり添えて獄中に送った。四銭の切手は議事堂、次の二銭は乃木大将、三番目の一銭はその農民たち。日本の或る姿がここに・・・ 宮本百合子 「郵便切手」
出典:青空文庫