・・・ 第二のテーマでは鉛直な直線の断片が自身に並行にS字形の軌跡を描いて動く。トリオの部分は概して水平な短い直線の断片が現われてそれがちょうど編隊飛行の飛行機が風に吹き散らされてでもいるような運動をする。これを見ながら同時にこの曲を聞いてい・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・ 羅宇の真中を三本の指先で水平に支えて煙管を鉛直軸のまわりに廻転させるという芸当も出来ないと幅が利かなかった。これも馬鹿げているが、後年器械などいじるための指の訓練にはいくらかなったかもしれない。人差指に雁首を引掛けてぶら下げておいてか・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・それから二三日たって気がついて見ると、一つは紙ひもがほどけかかってつぼみの軸は下方の鉛直な茎に対して四五十度ぐらいの角度に開いて斜めに下向いたままで咲いていた。もう一つのは茎の先端がずっと延びてもう一ぺん上向きに生長し、そうしてちゃんと天頂・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・だからあの天衣の紐も波立たずまた鉛直に垂 けれどもそのとき空は天河石からあやしい葡萄瑪瑙の板に変りその天人の翔ける姿をもう私は見ませんでした。(やっぱりツェラの高原だ。ほんの一時のまぎれ込みなどは結局斯う私は自分で自分に誨えるように・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
出典:青空文庫