・・・「いくら、鉱石が地の底で呻っとったってさ、俺達が掘り出さなきゃ、一文にもなりゃすめえ。」 だが、そういう者は、よほどうまく、かげにまわって喋らないと、役員に見つかり次第、早速、山から叩き出されてしまう。 二・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ このほうの玄人に聞いてみると、飲食店や店頭にある拡声器が不完全なためにそういう事になるので、よく調節された器械で鉱石検波器を使ってそして耳にあてる受話器を使えばそんなことはないそうである。しかし頭へ金属の鉢巻をしてまでも聞きたいと思う・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・「上の野原の入り口にモリブデンという鉱石ができるので、それをだんだん掘るようにするためだそうです。」「どこらあだりだべな。」「私もまだよくわかりませんが、いつもみなさんが馬をつれて行くみちから、少し川下へ寄ったほうなようです。」・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ 三里ほど山中の、至って交通の不便な部落から、切石、鉱石、蒔炭の類を産するので、町への搬出を手軽く出来るように、町からそっちへ売りこむ日用品をも楽に供給するために、出来たことなのである。 ずいぶん粗末な小屋掛け同様の建物が出来、むこ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・「西洋の学者の掘り散らした跡へ遙々遅ればせに鉱石のかけらを捜しに行くのもいいが、我々の脚元に埋もれてゐる宝を忘れてはならないと思ふ。」 寺田さんはその「我々の脚元に埋もれてゐる宝」を幾つか掘り出してくれた人である。・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
出典:青空文庫