・・・ 続き、上下におよそ三四十枚、極彩色の絵看板、雲には銀砂子、襖に黄金箔、引手に朱の総を提げるまで手を籠めた……芝居がかりの五十三次。 岡崎の化猫が、白髪の牙に血を滴らして、破簾よりも顔の青い、女を宙に啣えた絵の、無慙さが眼を射る。・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・紫紺色に寒々とさえた空には星がいっぱいに銀砂子のように散らばっている。町の音楽隊がセレナーデを奏して通るのを高い窓からグレーチヘンが見おろしている、といったようなきわめて甘いたわいのない子供らしい夢の中からあらゆる具体的な表象を全部抜き去っ・・・ 寺田寅彦 「詩と官能」
・・・ 障子を閉め切って澱んだ様な部屋の中に、銀砂子を散らした水色の屏風の裏が大変寒く見える前に私は丁寧に手を突いた。 そして一番偉い方だと思って居る先生にするよりもっとあらたまった静かなお辞儀をした。 手を膝にのせてその水色を見つめ・・・ 宮本百合子 「追憶」
出典:青空文庫