・・・これは、うす暗い中に、金紙や銀紙が、覚束なく光っているので、知れたのである。 李は、これだけ、見定めた所で、視線を、廟の中から外へ、転じようとした。すると丁度その途端に、紙銭の積んである中から、人間が一人出て来た。実際は、前からそこに蹲・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・わが名は安易の敵、有頂天の小姑、あした死ぬる生命、お金ある宵はすなわち富者万燈の祭礼、一朝めざむれば、天井の板、わが家のそれに非ず、あやしげの青い壁紙に大、小、星のかたちの銀紙ちらしたる三円天国、死んで死に切れぬ傷のいたみ、わが友、中村地平・・・ 太宰治 「喝采」
・・・わたくしはまた紙でつくった花環に銀紙の糸を下げたり、張子の鳩をとまらせたりしているのを見るごとに、わたくしは死んでもあんな無細工なものは欲しくないと思っている。白い鳩は基督教の信徒には意義があるかも知れないが、然らざるものの葬儀にこれを贈る・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・「――医者よんで下さい。ね」「話して見よう」 薄手な素足でこっちへ来て坐りながら、「下剤かけるかしら」 やや心配気に訊いた。私も小声で、「何のんだの」「銀紙のかたまり。……私呑みゃしないってがんばってるんだけど」・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・棺には銀紙が貼られているが、そこから突出ているのは雀の小さな灰色の爪と鋭い嘴であった。棺の後方の聖台、その上の銅製の十字架。三本の燃えさし蝋燭のともっている燭台にはどれもお菓子の金紙や銀紙がはりつけられてある。洞の中には、燃える蝋の匂い、腐・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫