・・・ 矢や銃弾も中らばこそ、轟然一射、銃声の、雲を破りて響くと同時に、尉官は苦と叫ぶと見えし、お通が髷を両手に掴みて、両々動かざるもの十分時、ひとしく地上に重り伏せしが、一束の黒髪はそのまま遂に起たざりし、尉官が両の手に残りて、ひょろひょろ・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・』『砲弾か小銃弾か?』『穴は大きい』『じゃア、後方にさがれ!』『かしこまりました!』て一心に僕は駆け出したんやだど倒れて夢中になった。気がついて見たら『しっかりせい、しつかりせい』と、独りの兵が僕をかかえて後送してくれとった・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・そして最大の速力で、銃弾の射程距離外に出てしまった。 そこで、つるすことを禁じられていた鈴をポケットから出して馬につけ、のんきに、快く橇を駆った。 今までポケットで休んでいた鈴は、さわやかに、馬の背でリンリン鳴った。 馬は、鼻か・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・彼女の全家族の生命が銃弾におびやかされたことがある。バックは、いくつかの貴重な生命を通じて、急激に動く中国を理解しているのである。 宣教師の娘であり、宣教師の妻であって、バックが、中国の民族的自立の必然を認め、中国の民衆の独自性を理解し・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
出典:青空文庫