・・・その草もない薄闇の路に、銃身を並べた一隊の兵が、白襷ばかり仄かせながら、静かに靴を鳴らして行くのは、悲壮な光景に違いなかった。現に指揮官のM大尉なぞは、この隊の先頭に立った時から、別人のように口数の少い、沈んだ顔色をしているのだった。が、兵・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・栗本の右側にいる吉田は白樺に銃身をもたして、小屋を射撃した。銃声が霧の中にこだまして、弾丸が小屋の積重ねられた丸太を通して向うへつきぬけたことがこちらへ感じられた。吉田はつづけて三四発うった。 森の中を行っている者が、何者かにびっくりし・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 野鴨の剥製やら、鹿の角やら、いたちの毛皮に飾られて、十数挺の猟銃が黒い銃身を鈍く光らせて、飾り窓の下に沈んで横になっていた。拳銃もある。私には皆わかるのだ。人生が、このような黒い銃身の光と、じかに結びつくなどは、ふだんはとても考えられぬこ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 冬の最中に、銃の手入をするのが一番つらかったと云った、赤切れから血がながれて一生懸命に掃除をする銃身を片はじから汚して行く時の哀なさと云うものはない。銃を持って居る手がしびれ、靴の中の足がこごえて、地面のでこぼこにぶつかってころんだり・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫