・・・二脚のテーブルといくつかの椅子があって、鋳型職場、旋盤からの若者が四五人八時間の働きを終って楽に坐っている。初歩の文芸部員たちは多くの場合詩人である。 ――今日は誰が読むね。 マップからの指導者が、煙草をふかしつつ一同を見渡す。・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ルネサンスにディフォーメイションがあったろうか。鋳型にはめたような中世の肖像画からレオナルドの生きた人間がおどり出した。ディフォーメイションは大づかみにいえばそのものとして発展する新しさを失った、近代の資本主義の社会の現実の中で、それを本質・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・ 幸田露伴という文人の、博学であったが封建性を脱げなかった常識的達人の鋳型を、やわらかい女の体と精神にしっかりと鋳りつけられた幸田文の文筆は、あまり特異である。文学にまで及んだ家長制について深く考えさせるものがある。 関村つる子、由・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 作者は、竹造という人物を登場させて来ることによって、今日の大衆化された階級対立の社会生活の現実にあっては、獄中生活を余儀なくされるのが、決して、昔卑俗に鋳型からぬかれてわれわれに示されていたような鉄の英雄ばかりではなく、全く竹造のよう・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
出典:青空文庫