・・・文芸懇話会の本質的な弱点、矛盾錯誤は主としてそういうところに露出したのであった。 帝国芸術院に対する一般の気受けについては、現在各人の胸に活きているものであるから姑くいわず、ただ、芸術院賞というようなものを制定したら、収拾し得ない紛糾を・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・同時に、いまの日本に急速にひろがりつつある不健全な時代錯誤、特権生活への架空な憧れと嫉妬のまじりあったような風潮も、青春の敏感な自意識をむしばみつつある。卑俗な風俗小説のほとんどすべてが、読者の好奇をそそるために、闇の世界とえせの貴族趣味と・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・しかし、よりよい可能の発見のために試みられる努力にも、実に錯綜した条件が働きあっていて、多くの予想しない矛盾や錯誤がおこって、すべてのことは一朝一夕には解決しない。そうかといって、希望がないのかといえば決して希望は失われていない。歴史の消長・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・しかし、どんな階級的作家でも十一世紀の宮廷婦人小説家に、わが身を模して満足しているような錯誤した歴史感はもっていまいと思います。事実は、都の教育委員会への立候補を求めて故服部麦生氏などが来訪されたときの話がゆがめられ誇張されたものです。・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・たといそれが、世界的潮流に乗っている洋画家の努力から見て、時代錯誤の印象を与えずにはいない程度のものであるにしても、とにかく現代人の要求を充たすに足りる新生面の開拓の努力は喜ぶべきことである。 しかしこの十年来の革新の努力がどういう結果・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・な仕事を仕上げているちょうどその時期に、わざわざシナの古代の理想へ帰って行くという試みは、何と言っても時代錯誤のそしりをまぬかれないであろう。家康自身はかならずしも時代に逆行するつもりはなかったかもしれないが、彼の用いた羅山は明らかに保守的・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫