・・・ 畏れ多い話だが、玉音は録音の技術がわるくて、拝聴するのが困難であったが、アナウンサーのニュースを聞いているうちに、「あッ、戦争が終ったのだ!」 と、直感された。 さすがの王仁三郎も五日間おくれてしまったわけだと、私は思った・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・ 街頭録音というものである。所謂政府の役人と、所謂民衆とが街頭に於いて互いに意見を述べ合うという趣向である。 所謂民衆たちは、ほとんど怒っているような口調で、れいの官僚に食ってかかる。すると、官僚は、妙な笑い声を交えながら、実に幼稚・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・たとえば雑音を防止するために従来のステュジオが役に立たなくなるとか、実際の雑音はまるで別物に変わるから適当な擬音を捜すとか、動き回る役者の声をどうして録音するかというようないろいろの問題が、単なる技術上だけの問題でなくて、映すべき素材の上に・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・カメラと焼付けも一体になかなか鮮明で美しいと思われたが、残念ながら録音の方にはまだまだ望むべき多くのものが残されているようである。 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・それほどに平凡な月並み、日並み、夜並みの市井の些事がカメラと映写機のレンズをくぐり録音器の機構を通過したというだけでどうして「評判の映画」となり、世界じゅうの常設館に渡り渡って人を呼ぶであろうか。もちろん観客の内の一部はたぶんそれが評判の映・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ところがこれに対する説明の録音は気取った調子で「千島にも春は来ました」とそれっきりである。千島の何島のどの部分の海岸をどの方向から見たのだか、また何月何日ごろの季節だか、そういう点が全然わからないのである。同じように、トナカイの群れを養う土・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 近ごろのトーキー録音方法の中でも濃淡式でない曲線式のを使えばこれはきわめて容易である。まず試みに各社名宝のスターの「横顔の音」でも聞かせたらどうであろう。 七 においの追憶 鼻は口の上に建てられた門衛小屋のよう・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・それは雑音の中に含まれるいろいろな波長の音波が、それぞれ回折や分散の模様のちがうために起こる現象である。 トーキーの場合には、実際の音の音色は決してそのままに記録され複製されない。それは録音ならびに発音器械の不完全から来る欠点である。そ・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
皆様の現場録音を拝見して、きょうの真面目な若い女性の心持に同感いたしました。いくつかの感想もあります。女子職員の声に出されていた質問とその答について順々にとりあげてゆきましょう。 (1)の男女交際ということも、男と女と・・・ 宮本百合子 「悔なき青春を」
・・・街頭録音などをきいても、婦人にマイクが向けられると、さあ、という言葉がまずきこえて来ることが少くない。 そして、こういう現象は、日本の封建的だった社会が、婦人の発言をどう扱って来ていたか、ということの反映であるという見解も、家では婦人自・・・ 宮本百合子 「今年のことば」
出典:青空文庫