・・・匕首が彼の懐で蛇のように鎌首を擡げた。が、彼の姿は、すっかり眠りほうけているように見えた。 制服、私服の警官隊が四人、前後からドカドカッと入って来た。便所の扉を開いた。洗面所を覗いた。が、そこには誰も居なかった。「この車にゃ居ない!・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・いさゝか白き鳥飛びぬ虫のためにそこなはれ落つ柿の花恋さま/″\願の糸も白きより月天心貧しき町を通りけり羽蟻飛ぶや富士の裾野の小家より七七五調、八七五調、九七五調の句独鈷鎌首水かけ論の蛙かな売卜先生木の下闇・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・久しぶりに俺の鞭も命を感じて鎌首を擡げるようだ。どれ、どれ。(にじり出した、宮の端から下界を瞰下一寸下を覗かせろ。愚鈍な人間共が、何も知らずに泰平がっている有様を、もう一息の寿命だ。見納めに見てやろう。ヴィンダー 俺の大三叉も、そろりそ・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫