・・・本尊だに右の如くなれば、この小堂の破損はいう迄もなし、ようように縁にあがり見るに、内に仏とてもなく、唯婦人の甲冑して長刀を持ちたる木像二つを安置せり。 これ、佐藤継信忠信兄弟の妻、二人都にて討死せしのち、その母の泣悲しむがいとしさに・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・とりなりの乱れた容子が、長刀に使ったか、太刀か、刀か、舞台で立廻りをして、引込んで来たもののように見えた。 ところが、目皺を寄せ、頬を刻んで、妙に眩しそうな顔をして、「おや、師匠とおいでなすったね、おとぼけでないよ。」 とのっけ・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 芬と、麝香の薫のする、金襴の袋を解いて、長刀を、この乳の下へ、平当てにヒヤリと、また芬と、丁子の香がしましたのです。」…… この薙刀を、もとのなげしに納める時は、二人がかりで、それはいいが、お誓が刃の方を支えたのだから、おかし・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・裏を返すと弁慶が大長刀を持って威張っている。……その弁慶が、もう一つ変ると、赤い顱巻をしめた鮹になって、踊を踊るのですが、これには別に、そうした仕掛も、からくりもないようです。――(覗き覗き、済純、これは舞姫ばかりらしい。ああ、人形は名作だ・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・とに立って奥様の御守刀で心臓を刺し通したので大変驚き「汝逃すものか」と長刀の鞘をはずして広庭までおって居らっしゃったけれ共前からぬけ道を作って置いて行方知れずになってしまった。色々体をとりなおしとりなおしなさったけれ共何分重傷なもんで「あの・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・森山の宿に入り給えば、宿の者共云いけるは、『今夜馬の足音繁く聞ゆるは、落人にやあるらん、いざ留めん』とて、沙汰人数多出でける中に、源内兵衛真弘と云う者、腹巻取って打ち懸け、長刀持ちて走り出でけるが、佐殿を見奉り、馬の口に取り附き、『落人をば・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・後者は、前方への進展の見とおしとその社会的なよりどころを見失った文学の懐古的態度として現れたのであったが、時代の急激なテムポは、微温的な懐古調を、昨今は、花見る人の長刀的こわもてのものにし、古典文学で今日の文学を黙せしめようとするが如き不自・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫