・・・三椀の雑煮かふるや長者ぶり少年の矢数問ひよる念者ぶり鶯のあちこちとするや小家がち小豆売る小家の梅の莟がち耕すや五石の粟のあるじ顔燕や水田の風に吹かれ顔川狩や楼上の人の見知り顔売卜先生木の下闇の訪はれ顔・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・また毎年じぶんの土地から十石の香油さえ穫る長者のいちばん目の子も居たのです。 けれども学者のアラムハラドは小さなセララバアドという子がすきでした。この子が何か答えるときは学者のアラムハラドはどこか非常に遠くの方の凍ったように寂かな蒼黒い・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・「一つ星めつけた。長者になあれ。」下で一人の子供がそっちを見上げて叫んでいます。 チュンセ童子が「蠍さん。も少しです。急げませんか。疲れましたか。」と云いました。 蠍が哀れな声で、「どうもすっかり疲れてしまいました。どう・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・作者は、その国の億万長者たちが世界地図をいつの間にか盤にして、その上にチェスのコマを動かしているように、世界のあらゆる場所にラニー・バッドを出没させる。地球とそこに起る出来ごとは作者の目の下にあるようだが、主人公であるラニー・バッドとは、何・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・この明神はもと三島の郡の長者であった。四万の倉、五万人の侍、三千人の女房を持って、栄華をきわめていたが、不幸にして子がなかった。で、北の方のすすめにしたがって、長谷の観音に参籠し、子をさずけられるように祈った。三七日の夜半に観音は、子種のな・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫