・・・それは今まで調べられた、どの切支丹門徒の申し条とも、全く変ったものであった。が、奉行が何度吟味を重ねても、頑として吉助は、彼の述べた所を飜さなかった。 三 じゅりあの・吉助は、遂に天下の大法通り、磔刑に処せられ・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・とある年の秋の夕暮、われ独り南蛮寺の境内なる花木の茂みを歩みつつ、同じく切支丹宗門の門徒にして、さるやんごとなきあたりの夫人が、涙ながらの懺悔を思いめぐらし居たる事あり。先つごろ、その夫人のわれに申されけるは、「このほど、怪しき事あり。日夜・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・私がその町に住まい始めた頃働いていた克明な門徒の婆さんが病室の世話をしていた。その婆さんはお前たちの姿を見ると隠し隠し涙を拭いた。お前たちは母上を寝台の上に見つけると飛んでいってかじり付こうとした。結核症であるのをまだあかされていないお前た・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・ こんの兄哥もそういうし、乗組んだ理右衛門徒えも、姉さんには内証にしておけ、話すと恐怖がるッていうからよ。」「だから、皆で秘すんだから、せめて三ちゃんが聞かせてくれたって可じゃないかね。」「むむ、じゃ話すだがね、おらが饒舌ったっ・・・ 泉鏡花 「海異記」
出典:青空文庫