・・・お袋と己とは広徳寺前の屋敷にぼんやりしていると、上野の戦争が始まった。門番で米擣をしていた爺いが己を負ぶって、お袋が系図だとか何だとかいうようなものを風炉敷に包んだのを持って、逃げ出した。落人というのだな。秩父在に昔から己の内に縁故のある大・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・ ここにはもう万事知れている。門番が詰所から挨拶をすると、ツァウォツキイは間が悪いので、頭を下げて通った。それから黙って二階の役人の前へ届けに出た。役人はもう待っていた。押丁が預托品の合札を取り上げて、代りに小刀を渡して、あらあらしく云・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫