・・・ 皮に入ったピストルを肩からかけ、剣を吊した門衛に小さいカードと引きくらべに、ジロ/\顔をしらべられてから、俺だちは鉄の門を入った。――入ると、後で重い鉄の扉がギーと音をたてゝ閉じた。 俺はその音をきいた。それは聞いてしまってからも・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・それで本のほうは断念して、園芸好きのR研究所の門衛U君に教わって理研製殺虫剤ネオトンのやや濃度の大きい溶液で目的を達せられることを知った。園芸書の著者になってみると、何々会社製の何剤がいいなどと明白に書くのは何かいけないさしつかえがあると見・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 七 においの追憶 鼻は口の上に建てられた門衛小屋のようなものである。命の親のだいじな消化器の中へ侵入しようとするものを一々戸口で点検し、そうして少しでもうさん臭いものは、即座にかぎつけて拒絶するのである。 人間・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ある人はこれを官衙の門衛のようだと言ったが、自分もどちらかと言えば多少そんな気がしないでもない。これは建築者の設計の中に神経過敏な顧客の心理という因子を勘定に入れなかったためであろう。 自分はいつでもこの帳場の前を通ってまずドイツ書のあ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・がっしりとした門にソヴェト同盟の国標、鎚と鎌をぶっちがえにしたものを麦束でとりかこんだ標がかかげてあり、その上に、ドン国立煙草工場と金字で書いてある。門衛がいるが、一向意地わるそうでもないし、うたぐり深い目つきもしていない。「受付はどこ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ Aは、学校の門衛の巡査に心当りを注意して貰うことを頼んだ。自分は毎朝、食後、時事新報の広告欄を見る。時には、「嫁入度」などと云う活字の下を、驚と、好奇心と相半ばした心持で読みなどし乍ら、「貸家、赤坂見附近」と云うような文字でも見つかる・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫