・・・のシュトラウス夫人では、阿蘭とはちがった、小川のような女心の可憐なかしこさ、しおらしい忍耐の閃く姿を描き出そうとしているのだが、その際、自分の持っている情感の深さの底をついた演技の力で、そういう人柄の味を出そうとせず、その手前で、いって見れ・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・自分にそれが向けられていなくても、音楽会などで近いところでそら、もうじきフラッシュが閃くぞと思うと、体が堅くなって来る。 深夜の鏡にチラリとうつる自分の顔は、気味がわるくて、ちゃんと視たことがない。真夜中、おなかが空いて、茶の間へお・・・ 宮本百合子 「顔を語る」
・・・すぐ振替えをとることが出来るのだそうだけれど、私たちは閃くような思いで、うちはどうするのだろう、と考える。先日の新聞には、月給百五十円の人の家計は昨今五十円ずつ足を出して、それは赤字となっていることが報告されていた。私たちはみんな自分の実際・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・謂わば平凡な文字の上に、暗い河北省の闇とそこに閃く光が濃く且つ鋭く走ったような事情である。 あの顔に向う疵では、間の抜けた丹下左膳だねと笑いながら、すぐ註文の薬品その他を揃える仕度にとりかかった。 今年四つになる男の児がいて、その児・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・静かな欅の梢の間に、ラッパの音が響き、銃剣が閃くようになった。学校の女生徒たちは、学徒動員で働きに出て行かなければならないが、寄宿舎はやはり営まれていて、皆がそこに暮していた。 ところが駐屯して来た軍隊は、その学校の表門にかけてある看板・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・その間にちょいちょい鋭い批評眼らしいものが閃く。あれでもう少し重みと見識が加ったら、相当に話せる女になるだろうと思わせる女であった。その人と、僅かしか入って居ない金入れのちょろまかしとは、愛にとって実に意外な連想であった。意外であり乍ら、而・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・ それはまことに尤もなのだし、本人として外側から及ぼすどんな力も願ってはいなかったのだけれども、それでも先生の聰明な如才なさのうちに閃くように自身の未来を空白として感じとることは苦しかった。もしそれでいいのなら、こんなにもがきはしないの・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・本を出したら、という考えが若い女性の心に閃くとき、そこには万ガ一当ればという経済事情も伴って浮ぶようになって来ている。 今日のこういう現象の複雑さでは、つまるところ儲けが眼目で本屋は当りそうな女の本をあさっているのだとばかり単純に云い切・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・モデルという職業婦人は現実の職場でも裸になるのではあるが、私はそのモデルでさえ、職業における個人の性格の閃く瞬間は、彼女が将に全身をあらわそうとする時にあると感じる。猪熊氏が画面の新奇なくみ合わせに自分から興じているように私には感じられたの・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・デスデモーナは、閃くようにオセロの憤りを思った。その思いは、何事もないとき、甘美に耳を傾けていた良人たるオセロの武勇のつよさを連想させ、そこに自分に向ってぬかれる剣を感じ、デスデモーナは、愛と恐怖に分別を失った。きょうのわたしたち女性はデス・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
出典:青空文庫