・・・ 閃く稲妻のようにひろ子の心を一つの思い当りが走った。それが、泣き膨れたひろ子の精神の渾沌を一条の光となって射とおした。ひろ子は、重吉の手をとって、「ね、云ってもいい?」ときいた。「いいさ」「わたしが、あなたの気もちを傷・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・控室はこんな情景も閃くのである。刻々つのって来る人々の動きに押されたようにして、ここにも守衛が立っている。 やがて十一時半になって、詰め合って並んでいた列が動き出した。こういう場所の光景に馴れない目には、どの人も一様に片手に傍聴券と財布・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・みのえは、のっそり立ち上り、小僧を睨みつけると、物も云わず片手にキラキラ閃くものを振り翳し小僧に躍りかかった。 気がついた時、みのえは元よりずっと草原の上の方に跳ねとばされていた。四五間下の方に、小僧も倒れた。彼等は互に睨み合いながら、・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・夜になると、月のない闇空に、黒い入道雲が走り、白山山脈の彼方で、真赤な稲妻の閃くのが見えた。 夜中に、二度ばかり、可なり強い地震で眼を醒された。然し、愈々夜が明けると、二百十日は案外平穏なことがわかった。前夜の烈風はやんで、しとしとと落・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・構成派にあっては感覚はその行文から閃くことが最も少いのを通例とする。ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。時として感・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫