・・・ 私はかつて或所で頼まれて講演した時、「日本現代の開化」という題で話しました。今日は題はない。分らなかったから、こしらえませんでした。 その講演のとき開化の definition を定めました。開化とは人間の energy の発現の・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・この国の文学美術がいかに盛大で、その盛大な文学美術がいかに国民の品性に感化を及ぼしつつあるか、この国の物質的開化がどのくらい進歩してその進歩の裏面にはいかなる潮流が横わりつつあるか、英国には武士という語はないが紳士と〔いう〕言があって、その・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
一 新聞というものについての考えかたも、それぞれの時代によって大きい変化を経て来ていると思う。 明治の開化期、日本にはじめて新聞が発刊された時分、それはどんなに新鮮な空気をあたりに息吹かせなが・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・この性格は、士分のものが来るべき「開化」の担当者であるべきだという見通しに立ったものであった。そして、明治維新という不具なブルジョア革命は、事実ヨーロッパにおけるように市民による革命ではなくて、下級武士とその領主たちが、一部にふるいものをひ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・は明治開化期の日本の文化のありようと、後に日本の科学の大先輩として貢献した人々の若き日の真摯な心情とを、医学者としてのベルツ、生物学者としてのモールスが記述していて、文学における小泉八雲、哲学のケーベル博士、美術のフェノロサの著述とともに、・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・いまわたしたちが封建社会の崩壊期として理解している幕末と、中途半端な開化期として理解している明治初年についてのさまざまの物語りをもって。おゆきは、二人の祖母のだれも示さなかったやりかたで、明治初年の東京の庶民ぐらしの気分をつたえたたった一人・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 周知の如く近代国家としての日本は独特な発展の過程をとり所謂開化期の文化の自由民権的傾向というものは明治二十三年国会が開かれると同時に一種の反動期に入り、今日とはその質を異にするが、官僚「官員さん」の横行時代を現出した。日清、日露の両戦・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・明治初頭十年十五年間の社会事情を真面目に観察すれば、日本の開化期文化・文学の複雑な胎生を見逃すことは出来ない。旧時代の文学的伝統は仮名垣魯文その他の戯作者の生きかたに伝え嗣がれており、維新と開化とに対して、江戸っ子であり旧時代の文化の代表で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・津田真道が「開化を進る方法を論ず」、加藤弘之「国体新論」、西周は「知説」のほかに「致知啓蒙」、福沢諭吉は「文明論の概略」、祖父は明治八年に「泰西史鑑」というものを独・物的爾著から重訳して出している。 いずれも当時の進歩的学者であったし、・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・当時日進月歩であった新日本の足どりにおくれて手足まといとならない範囲に開化して、しかも過去の自由民権時代の女流のように男女平等論などを論ぜず内助の功をあげることを終生のよろこびとする、そのような女を、明治の日本は理想の娘、妻、母として描き出・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫