・・・ツイその数日前の或る新聞にも、「開国始末」で冤を雪がれた井伊直弼の亡霊がお礼心に沼南夫人の孤閨の無聊を慰めに夜な夜な通うというような擽ぐったい記事が載っていた。今なら女優を想わしめるジャラクラした沼南夫人が長い留守中の孤独に堪えられなかった・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・これはおそらく世界共通の現象で、現在でも未開国ではその片影を認めることができるようである。祭祀その他宗教的儀式と連関していろいろの巫術魔術といったようなものも民族の統治者の主権のもとに行なわれてそれが政治の重要な項目の一つになっていたように・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 嘉永年中、開国の以来、我が日本はあたかも国を創造せしものなれば、もとより政府をも創造せざるべからず。ゆえに旧政府を廃して新政府をつくりたり。自然の勢、もとより怪しむに足らず。その後、廃藩置県、法律改定、学校設立、新聞発行、商売工業の変・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・今、この意味をおしひろめて申さんに、そもそも我が開国の初より維新後にいたるまで、天下の人心、皆西洋の文明を悦びて、これに移らんとするに急なれば、人を求むることもまた急にして、いやしくも横文字読む人とあれば、その学芸の種類を問わず、その人物の・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・(徳川をはじめとして諸藩にても新に寺院を開基し、または寺僧を聘 また近時の日本にて、開国以来大に教育の風を改めて人心の変化したるは外国交際の刺衝に原因して、その迅速なること古今世界に無比と称するものなれども、なおかつ三十の星霜を費し、然・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・我が開国に次で政府の革命、すなわちこれなり。 開国以来、我が日本人は西洋諸国の学を勉め、またこれを聞伝えて、ようやく自主独立の何ものたるを知りたれども、未だこれを実際に施すを得ず、またその実施を目撃したることもなかりしに、十五年前、維新・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 源泉は遠い遠い彼方迄遡る、深い真実な人間生活、圏境の裡から湧き出している、それ故、まるで過去の歴史と、開国以来の国民的性格の異った私共が、軽々しくそれ等を批判することは出来ません。その真によい処も悪いところも、傍から考えるよりはもっと・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫