・・・少なくも争議開始後二三日は全線いったいに乗客が少ないではないかと思われた。これは市民の出足がなんとない不安のためにいくぶん止められたためかと想像された。しかしまた、乗り換え切符を出さなくなったために乗客の選ぶコースが平常と変わり、その結果と・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・世間へ出てみると、懐手をして待っていたって、下宿料が入って来る訳でもないので、教育者になれるかなれないかの問題はとにかく、どこかへ潜り込む必要があったので、ついこの知人のいう通りこの学校へ向けて運動を開始した次第であります。その時分私の敵が・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・と、プロレタリア作家の農村における闘争的活動が開始される。 読者はこの作家の実行運動において最も拙劣な、機械的なオルグを見るのである。強制献金のための村の衆の集りに出て、アジ・プロしようという機会そのものの積極的なとらえかたは、間違った・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・そして日本女子大学と英学塾とは早速大学に昇格するための運動を開始した。井上秀子女史が戦時中日本女子大学校長としてどのように熱心に戦争遂行に協力したかは当時の学生たちが、自分たちの経験した過労、栄養不良、勉学不能によって骨の髄まで知りつくして・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・そこでキュリー夫人は活動を開始して先ず大学の幾つかの研究室にある幾つかのX光線装置に、自分の分をも加えた目録を作り、続いてその製造者たちのところを一巡して、X光線の材料で使えるだけのものをことごとく集め、パリ地方のそれぞれの病院に配布される・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・この大戦の期間から、それにひきつづくドイツの人々の極度に困窮した不幸になった時代、フローレンス旅行以来しばらく沈黙していたケーテの創作は再び開始された。もう六十歳に近づいて、妻として母として重ねたかずかずの悲喜の経験とますます暗い雲に光を遮・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ トルーマンにしろ、デューイにしろ、大統領立候補のはじめから、互に根本的に対立する政策をもって運動を開始したのでなかったことは、われわれにも明瞭だった。ルーズヴェルトの時代、同じ民主党に属していても保守的な南部諸州の見解をおもんばか・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・して此の勇敢なる結果としての効果は、より主観的に対象を個性化せんと努力した芸術的創造として、新しき芸術活動を開始する者にとっては、絶えずその進化を捉縛される古きかの「必然」なる墓標的常識を突破した、喜ばしき奔騰者の祝賀である。より深・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・だが、その表面に一度爪が当ったときは、この湿疹性の白癬は、全図を拡げて猛然と活動を開始した。 或る日、ナポレオンは侍医を密かに呼ぶと、古い太鼓の皮のように光沢の消えた腹を出した。侍医は彼の傍へ、恭謙な禿頭を近寄せて呟いた。「Tric・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・世界の女優はここに競争を開始した。 今宵チュウリンの街を貫ぬく叫び声は C' auche lei……ベルナアルのほかになお一人あり。 一年もたたぬ間にイタリーは小さいデュウゼに充ち充ちた。頭髪をかきむしり、指を噛み、よろめき泣く。彼・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫