・・・狭い店の中には腰掛から半分尻をはみ出させた人や、立ち待ちしている人などをいれて、ざっと二十五人ほどの客がいるが、驚いたことには開襟シャツなどを着込んだインテリ会社員風の人が多いのである。彼等はそれぞれ、おっさん、鯨や、とか、どじょうにしてく・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・「そこが、ピストル強盗よりも凄いところさ。」 その女のひとのために、内緒でお金の要る事があったのに違いないと私は思いました。「それじゃ、何を着ていらっしゃるの?」「開襟シャツ一枚でいいよ。」 朝に言い出し、お昼にはもう出・・・ 太宰治 「おさん」
・・・しかも、こんどのシャツには蝶々の翅のような大きい襟がついていて、その襟を、夏の開襟シャツの襟を背広の上衣の襟の外側に出してかぶせているのと、そっくり同じ様式で、着物の襟の外側にひっぱり出し、着物の襟に覆いかぶせているのです。なんだか、よだれ・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・カアキ色のズボンをはいて、開襟シャツ、三鷹の町を産業戦士のむれにまじって、少しも目立つ事もなく歩いている。けれども、やっぱり酒の店などに一歩足を踏み込むと駄目である。産業戦士たちは、焼酎でも何でも平気で飲むが、私は、なるべくならばビイルを飲・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・ そんなことを考えながら、T君の山男のような蓬髪としわくちゃによごれやつれた開襟シャツの勇ましいいで立ちを、スマートな近代的ハイカーの颯爽たる風姿と思い比べているうちに、いつか快い眠りに落ちて行ったことであった。・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・学生服や開襟シャツに重ねた仕事着姿の被告たちにまじって、ただ一人きちんとネクタイをつけ上着のボタンをかけた背広服姿の竹内被告が、腹の下に両手をくみ合わせ、やや頭を左に傾けた下眼づかいに正座している当日の彼の写真は、全身の抑制された内向的な表・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 開襟シャツの若い背広車掌はいかにも嬉しそうである。「ポール直して」 ずんぐりが指図している。車内にのこった一人が方向を巻き直そうとしてのび上ったら、「方向はいいから、方向板だけはずして下さい」 その電車は、ポールを直し・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・と、梶は、今日は学生服ではない栖方の開襟服の肩章を見て笑った。「今日はおれ、大尉の肩章をつけてるけれど、本当はもう少佐なんですよ。あんまり若く見えるので、下げてるんです。」 少年に見える栖方のまだ肩章の星数を喜ぶ様子が、不自然ではな・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫