・・・昔はお辞儀の仕方が気に入らぬと刀の束へ手をかけた事もありましたろうが、今ではたとい親密な間柄でも手数のかかるような挨拶はやらないようであります。それで自他共に不愉快を感ぜずにすむところが私のいわゆる評価率の変化という意味になります。御辞儀な・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・嫁の役目と思えば勉強すべきなれども、其教訓いよ/\厳重にして之を守ることいよ/\窮窟なる其割合に、内実親愛の情はいよ/\冷却して内寒外温、遂に水臭き間柄となるは自然の勢にして、畢竟するに舅姑と嫁と、親子にも非ざる者を親子の如くならしめんとし・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 今政府と人民とは他人の間柄なり。未だ遠ざからずして、まず相近づかんとするは、事の順序を誤るものというべし。けだし各種の人がめいめいの地位にいて、その地位の利害におおわれ、ついに事柄の判断を誤るものは、他の地位の有様を詳にすること能わざ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・この活物の運動は、親子の間柄にてもなおかつ自由ならざるものあり。いわんや他人の子を教うるにおいてをや。決して意の如くなるべからざるなり。 学校の教育は、決して教者の意の如くなるべきものに非ず。すでに不如意なるを知らば、その不如意に処する・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・偶然、安芸書房の広中氏と故宮原晃一郎氏の夫人とが知りあいの間柄で、「古き小画」の切りぬきは、宮原夫人を通じて手に入った。そして、ここにおさめられることになった。「古き小画」で作者は、古代の近東の封建的な武人生活の悲劇を描こうとしている。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・―― 十六日 今度の共産党事件のリーダーであった三人の若い主義者の一人××さんの親御と私はずっと前から知り合いの間柄であった。 国は九州です。こっちへ立って来る前 国へかえったら××さんのお父さんがわざわざ会いに来られて・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ましてや年来懇意にした間柄である。婦女の身としてひそかに見舞うのは、よしや後日に発覚したとて申しわけの立たぬことでもあるまいという考えで、見舞いにはやったのである。女房は夫の詞を聞いて、喜んで心尽くしの品を取り揃えて、夜ふけて隣へおとずれた・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・殊に大学の三百年祭の事を知らせてよこした時なんぞは、秀麿はハルナックをこの目覚ましい祭の中心人物として書いて、ウィルヘルム第二世とハルナックとの君臣の間柄は、人主が学者を信用し、学者が献身的態度を以て学術界に貢献しながら、同時に君国の用をな・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・僕と俳句友達ですから、遠慮の要らない間柄なんです。」と高田は附加して云った。「しかし、憲兵に来られちゃね。」「さァ、しかし、そこは句会ですから、何とかうまくやるでしょう。」 途中の間も、梶と高田は栖方が狂人か否かの疑問については・・・ 横光利一 「微笑」
・・・『吾輩は猫である』のなかに描かれている苦沙弥先生夫妻の間柄は、決して陰惨な印象を与えはしない。作者はむしろ苦沙弥夫人をいつくしみながら描いている。だから私は漱石夫妻の仲が悪いなどということを思ってもみなかったのである。実際またこの日の夫人は・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫