・・・頗る唐突に、何の前後の関聯も無く「埋木」という小説の中の哀しい一行が、胸に浮かんだ。「恋とは」「美しき事を夢みて、穢き業をするものぞ」東京とは直接に何の縁も無い言葉である。 戸塚。──私は、はじめ、ここにいたのだ。私のすぐ上の兄が、この・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・この減摩油の効力を規定する因子としての oiliness は、ある学者の説では炭水素連鎖の屈撓性、あるいは連鎖が界面に横臥しうる性質と関連しているとのことであるが、現在の場合でも連鎖が屈伸自在であればあるほど、金属の molecular な・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・同協会から賞牌を贈られたのは多分これに関聯してではなかったかと想像される。また船舶の胴体に働く剪断応力の分布について在来の考えの不備な点を考察した論文がある。これも重要なもので、多くの外国の教科書等にも同君のこの論文が引用されている。また船・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ これに関連したことで自分が近年で実に胸のすくほど愉快に思ったことが一つある。それは、日本航空輸送会社の旅客飛行機白鳩号というのが九州の上空で悪天候のために針路を失して山中に迷い込み、どうしたわけか、機体が空中で分解してばらばらになって・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ これに関連して思うことは今日の普通教育のしかたに共通した一種の器械的な形式主義がありはしないかということである。昔の小学校の先生などとちがってあまりに立派な教育者としての素養があり過ぎるために、またその上に文部省の監督があまりに行き届・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・ こういう実に不思議な現象の原因の一つは新聞社間の種取り競争に関連して発生するものらしく思われる。その日に種にしなければどこか他の新聞に出し抜かれているという心配がある。しかし翌日の新聞をことごとく点検する暇などはない。そうして翌日は翌・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・あるいはまた、二つの島の中間の海が漸次に浅くなって交通が容易になったというような事実があって、それがこういう神話と関連していないとも限らないのである。 神話というものの意義についてはいろいろその道の学者の説があるようであるが、以上引用し・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・ 器物の美にはもちろんそれ自身に内在する美があるには相違ないが、それを充分に発揮させるためにはその器物の用と相関連したモンタージュの把握が必要ではないかと考えるのである。 赤楽の茶わんもトマトスープでも入れられては困るであろう。・・・ 寺田寅彦 「青磁のモンタージュ」
・・・これが時と関連して来るのは自然の経験の結果である。われわれの普通日常用いる時計の針の回る角度がたまたま時の代用となるのもやはり自然の経験にほかならぬ。少なくともこの点においては時計の「時」とエントロピーの「時」とは対等のものである。 今・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・理由は、思想が人間性の苦悩の底へ、無限に深くもぐりこんで抜けないほどに根を持つて居るのと、多岐多様の複雑した命題が、至るところで相互に矛盾し、争闘し、容易に統一への理解を把握することができないこと等に関聯して居る。ニイチェほどに、矛盾を多分・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
出典:青空文庫