・・・真砂なす数なき星のその中に吾に向ひて光る星あり しかし星も我我のように流転を閲すると云うことは――兎に角退屈でないことはあるまい。 鼻 クレオパトラの鼻が曲っていたとすれば、世界の歴史はその為に一変してい・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・その間、年を閲する二十八、巻帙百六冊の多きに達す。その気根の大なるは東西古今に倫を絶しておる。もしただ最初の起筆と最後の終結との年次をのみいうならばこれより以上の歳月を閲したものもあるが、二十八年間絶えず稿を続けて全く休息した事がない『八犬・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・偶ま中路暑に苦み樹下に憩い携うる所の一新聞紙を披いて之を閲するに、中に載する有りチシヨンの博士会一文題を発し賞を懸けて能く応ずる者あるを募る。其題に曰く学術技科の進闡せしをば人の心術風俗に於て益有りしと為す乎将た害ありしと為す乎とルーソー之・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・しかもその欠点を挙げて「その集を閲するに大かた解しがたき句のみにてよきと思う句はまれまれなり」といい「百千の句のうちにてめでたしと聞ゆるは二十句にたらず覚ゆ」と評せり。自己が唯一の俳人と崇めたる其角の句を評して佳什二十首に上らずという、見る・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 皆さん新聞で御承知のことと思いますが、部落解放運動の長老として有名な代議士の松本治一郎氏が開院式のとき天皇に拝閲することを拒絶して問題になりました。なぜ松本氏が拒絶したかといえば「蟹の横這い」が厭だったというのです。天皇がまっすぐに向・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
出典:青空文庫